詩を書く

Rain Street

女は雨の中を歩いていた 凍えそうな夜に傘も差さず、上着もなく 片足を引きずって 手にした何かが右手を離れても気付かない 男もまた雨の中を歩いていた 誰かに追われていた、それを振り切って 左手を壁に伝いながら 激しい咳の発作に身をよじらせる 女と男…

song for you

君の住む町にたどり着けない 風に誘われて風に巻かれて 歩いても歩いても遠く遠くなる 無人の駅に 電車は来ない 君の名前を忘れてしまっている 僕は僕のことも思い出せない だから今旅に出る それが歌になる 僕(君)はまた別の誰かになる 右のポケットにず…

「Bright Lights, Big City」

闇の中で光る生き物たちがこの街を漂う まとわりついて君を食い尽くそうとする 大きなやつは山をも超え身動きができず 太陽よりもはるかに眩い呼吸を放つ 明滅で信号を送りあう妖精たちが 今君の左耳の中に入っていった たぶん奥へ奥へ脳髄にもたどり着くだ…

「WORDS」

言葉はどこにあるのか 向かうのか 探るのか 歌うのか 踊り 争い 連ね 繋がれ そして 消えていく 言葉にならないもの 影となるもの ただ音に聞こえるもの 誰かが思い出す 人類の最初の言葉 最後の言葉 子どもたちが新しい言葉に出会う 恋い焦がれ 狂わされ ま…

青空

青空はいくつあるのか あとどれぐらい残されているのか 夕暮れ時 今日の空がひとつ消えて 誰かがそれを数えている 灰色の空に響き渡る音 この世界の最後の音 暗闇に変わってもそれは続いている それはもっと大きくなる 世界最初の青空から いったいどれくら…

「半島」

雪原を行く夜行列車 終点へと向かう 車両にはひとりきり 窓際に座る 車がずっと並んで走っている ヘッドライトが狭い範囲を照らしている 無人駅 スナックの明かりが見える ピンク色のひとつあるだけ 照らされて雪が降り積もる 音もなく ホームを離れ走り出す…

「in the flat field」

純真な猿の瞳で見つめる 青い空 漂う雲 まだ幼くて 風に揺られ 潮の音に耳を傾け 君は猫になり 貝殻を拾う 砂まみれの 遠い昔の 波打ち際に足跡を残して 君は僕らの元を去っていく 人間なんてやめてしまえと人間たちが言う よそ者は殺せと世界の反対側で行進…

「Innocence」

誰もが風邪を引いて地面にうずくまる 鉛色の雲が低い家並みにかかっている 並んで歩く人夫たちの格好はてんでバラバラで 彼らの間でも言葉は通じない 大げさな身振りでキーキーと笑い合う 僕らにできることはただそれだけ テレビを見てネットで発言して 今日…

Mid-City

3階からスケートリンクを見下ろす 潜り抜けて円を描く 時計回り反時計回り 足を滑らせる少年A ミセスBはつま先を高く上げる 音楽の途切れる瞬間があった クッキングスタジオ 賑やかな色彩 ピカピカの電子レンジが壁いっぱいに積み重なる 揃いのエプロンで…

「Bowling for ...」

階段の陰 かすれたボーリング大会のお知らせ ひと気のない商店街 野良犬が背中を丸めて立ち去る 閉鎖された町 閉鎖された国 手を離れて 風船が飛んでゆく 海沿いの線路は草むらの中へ どこにも辿り着かない ホームに降り立って風向きを見る 電車を待つ 子ど…

「Fabric Room」

隣の部屋に猫がいる その存在を感じる 鳴き声はしないひっかくこともない 隣の部屋には他に誰もいない 隣の部屋に猫がいる 窓もなくドアもない 外では雨が降っている 椅子に座って壁を眺める 隣の部屋に猫がいる じっと息を潜めている 外の雨は雪に変わった …

「Man on the Moon」

世田谷 真夜中のコインパーク ワゴン車のカーナビが光る 眠る男の横顔 曇り空 住宅地 無言の植え込み 「この辺りは空き巣が多いから気をつけて ここも前住んでた人もやられたの」 「チラシのポスティングって 狙える家を探してるみたいね」 明け方の信号待ち…

「Paradise」

白い家と白い家と白い家 生け垣 植え込み ガーデンライト その外に広がる砂漠 極夜 水平線上の光 通りの名は希望とか楽園であるとか 交差点の陰に立って奥様たちは噂話に忙しい 今夜人工衛星が墜落することになっている 砂漠は1ヶ月に1mのスピードで広が…

「wonderfuck」

晴れた朝 青い象の背に乗って会社へと向かう 246を渋谷方面へ やあ 君は白いキリンで? クラクションのことは気にしないでね 鳥たちを呼び寄せる若者がいる 風向きを読んで 指を空に向けて 歩道橋の上から 口笛を 羽田へと向かうジェット機が通り過ぎる 子ど…

「踊り子」

踊り子は笛の音に誘われて 月の光に照らされて 森の奥 湖のほとり 一人きり目を閉じて 時を忘れて 空に浮かぶ舟が 彼女の観客 銀色と砂色と茜色 言葉は光に包まれて 一瞬の煌きがその声をかき消す 鳥たちの群れが地平線の彼方に消える 辿り着いた宇宙飛行士…

「ナイアガラ」

その時が来たら僕は 飛行機に乗るだろう ロケットに乗るだろう 目を閉じて思い浮かべる ナイアガラ 声はかき消され 視界は白く煙る 夜が明け、目を覚まし、狼が氷原を渡る 上空を通過する偵察機が 音速を超える 何年も 何十年も 机の上、写真を飾っていた 知…

「遠く離れて」

ホームに立つ 川が流れている この冬一番の寒さ 夜はまだ明けきっていない 鍵を握りしめる 冷たくなって硬くなって だけどそれを握りしめる ポケットの中 左手の中 電車を待つ 川が流れている この冬一番の寒さ 空が白く染まりだした

Common Sense  

ひかりの怪物が屋根を飛び越える 月夜に吼えて海鳴りを探す (僕は君に会いにゆく) パントマイム流星群 朽ち果てたバス 運転席の銃弾 99の国旗 101の処刑台 よく冷えたマルガリータ (僕は君に会いにゆく) 簪と銃声 七色の流星 (僕は君に会いにゆく) 子…

Tigar Star

この都市の垂直方向の平行関係、その交点の連鎖 流れる、放射される熱量のシミュレーションを外壁Aに最大深度で投影する その輪郭500mが君になる、君が描くから同時に君は君でなくなる 笑顔の行方、傍らに描くのは虎に星、月に花 赤い水が溢れ、黒い蝶が舞…

Nowhere

客車のドアを開けて目の前の空いている四人掛けの席に沈み込んだ コートの襟元にこびりついて半分解けかかった雪を払った 見ると向こうは平野の果てまでを覆う暗闇と点々と連なる明かり その周りを白いものが激しく舞っている 目を閉じて客車の揺れるくぐも…

Colourful Life 2014

ソファーがあった、白いソファーだった その横には観葉植物が並んでいた、四角い窓を背景としていた その脇の床には灰皿が置かれていた、吸い殻がきれいに並べられていた 口紅がかすかについていた、紅い口紅だった 部屋の中は薄暗かった、窓の向こうがやけ…

「恋人たち」

恋人たちは深い海の底を歩いた 声を交わすことなく、ただその手を握り合って 何万年、何十万年と やがてひとつの生き物となるまで 人類最後の恋人たちが 海の底何万メートルもの呪いをかけられて、希望を託されて、 永遠に醒めることのない夢の中で 降り注ぐ…

夜明け

鳥たちは枝の間に身を隠し歌う雨を見つめる 降り注ぐ光の中を跳ね返り銀色の音を立てる 水かさの増した川を行く無人の舟が揺られて 子どもたちは歌う歌う花を挿して岸辺に立つ 鳥たちは草の間を通り抜け踊る雨に耳傾ける 溶け出した光の渦が熱を放ち紫の煙に…

grey drop

雨の中、傘も差さずに歩く この街はどこにも辿りつかない 入口も出口もない 無言の大人たちとすれ違う 誰もがひとりきり俯いて 僕はコートの襟を立てて 灰色の濁流に呑み込まれていく 見上げると空に赤く点滅するものがある 雲の隙間に隠れて、また現れる 雨…

月舟歌

舟を浮かべて、波間に揺れて 子どもたち乗せて、月に照らされて どこ、どこへと向かう 舳先に聞いて、口伝えする 舟が浮かんで、風に誘われ 言葉が積まれて、月が見つめてて いつ、いつかと聞かれ 忘れてしまう、夢をまた見る 舟は消えたよ、波間も消えた 子…

Diamond Dust

知らない街 ひとりきり歩く 初めての夜 凍えそうな指先をかざす 雪が降りそうだと すれ違う人が言ってた コートの襟を立てて 灯かりがひとつふたつ ここがどこなのか 誰にもわからないのに わたしはあなたに 会いに行こうとしている 白めく街 ひとりきり歩く…

Fallen Angel

落ちてきた夢 片言の夢 赤い鳥には青い花 白い光に包まれて 黒い闇へと流れゆく 落ちてきた夢 歌うたう夢 青い鳥には赤い花 心は言葉に包まれて 黒い闇へと流れゆく おちてきた夢 探してた夢 青い風には赤い月 白い光に包まれて 黒い闇へと流れゆく

Untitled

街の始まり(街が生まれる) 街の終わり(街が死ぬ) 街は街の夢を見る 隣の街のことを考える 街は動いている 地球の自転に加わろうとする 呼吸する、会話を交わす 形を変える、変身をする 例えばそこに住む人間のことは知らない ただその動向を感じるだけ …

Diamond Starfucker.

女神たちが真夜中、集まってハイウェイを駆け抜けた 黒のレザースーツ、ハイヒール 闇に煌く指輪たち この世界の運命を決める 終わりを決める 牙をむく獣に乗って、鞭をくれる また別の女神たちは筏に乗って川を下り、歌を歌った 激流に飛ばされてひとり、投…

All You Pretty Monkeys

彼女は唇を動かした 僕は右手を動かした 彼女は瞳を動かした 僕は右手を動かした 彼女はここにいない 僕もそこにはいない 彼女は何も知らない 僕だけが知っている 自傷の猿が血を流す 飼育員が止めようと 僕は外で眺めていた 檻の中を眺めていた